LOGIN俺はエリック。ここリチェスターのBランク冒険者だ。それなりに修羅場もくぐって来たしこの中じゃあ指折りの実力があるつもりだ。この2日ほど街の周辺からあまり魔物が出て来ない。仕方なく他の冒険者仲間や、腐れ縁のユズリハ達とギルドで馬鹿な話しをしながら暇を潰して過ごしていた。
その時スラっとした華奢な体格の小さい女の子が登録にやってきた。だが本当は男らしい。驚いた。どう見てもここにいる女冒険者じゃあ勝負にもならないほどの美貌だ。しかもどの魔法の属性も使えるらしい。それが本当ならとんでもない奴だ。しかも魔力量測定器のクリスタルを粉々に破壊するほどの魔力。
ユズリハの奴も気になっているようだし、俺も暇していたところだ。だから気になって剣技の試験官を買って出た。実際に手合わせすれば実力がわかるってもんだ。
しばし会話を交わしたが、落ち着いていて悪い奴じゃなさそうだった。嘘をついている素振りもないし、そこまでの威圧感もない、化け物染みているのは魔力だけなのか?
腰に2本の片手剣、これが得物か。普通の剣に見えるが恐らくかなりの業物だ。右に差しているってことは左利きか。どんな剣技を使ってくるのか楽しみだった。だが俺はすぐに軽い気持ちだった自分を後悔することになる。
「殺されるなよ」
軽口を叩いたギルマスのじいさん。だがそれが本当に心からの言葉だったんだと、俺はすぐに理解した。左手に剣を持ったままその手を下に投げ出し、ほぼ棒立ちのまま俺の眼前にいる華奢な少女のような男、カーズ。隙だらけの構えだ、だが全く隙がねえ。どうなってやがる? そしてもし剣を合わせたらその瞬間に俺は死ぬ。何故かはわからない、どう攻撃を仕掛けても死のイメージしか湧かない。
何なんだこいつは! ここまで『死』という明確なイメージを持つなど、これまでの経験でも全くない。お、こいつ強いなとか、精々そんな程度だ。じいさんは一目見ただけでこいつの実力を感じたって訳か。あのジジイ食えねえぜ。
違和感を覚えつつも、それを払拭しようと俺は渾身の攻撃を繰り出した。試験レベルではない斬撃を何度も重ねた。だが当たらねえ! 不思議なのは俺が斬るつもりの空間から先に移動されてしまうということだ。まるでもう知っているかのような回避行動。とんでもねえ!
しかも途中からは目を瞑りやがった。なのに当たらない。俺は全斬撃を渾身の力とスピードで放っているんだ。それをここまで躱されたことなどない。振るう全ての斬撃が空を切る。しかもその場からほとんど移動すらしねえ。俺がここまでの次元に到達できるのか? 否、イメージすら湧かない。どんな修行をしたらここまでになれるんだ?
最後の手段だ、
左に出てくることに賭けた。賭けは俺の勝ちだ。遂に俺の剣がこいつを捕らえた! だが普通は刃で受けるもんだ。獲物の大きさがまるで違う。だがこいつは脆いはずの剣の腹で受けやがった。しかも筋力も相当だ。押し切れねえどころかびくともしない。武器ごとぶった斬るつもりだったんだ。だがこいつは左手一本で受けた。この細い体のどこにこんなパワーがある?
そしてその瞬間だった。剣に剣を絡め捕られるような感覚。動けねえ、何をされてるんだ?
「アストラリア流ソードスキル」
その言葉を聞いた瞬間俺の大剣にとんでもない威力の何かが撃ち込まれた。全く見えねえ、どう動かれたのかもわからん。だがその刹那の瞬間にあいつは目の前からも消えた。俺が目にしたのは共に死線を潜り抜けてきた愛用の
「アームズ・ブレイク」
背後から声がした。武器を破壊するような技だったようだ。こいつは俺の体に傷一つ付けることなく戦闘不能にした。いや、あんな技をまともに喰らえば俺自体が木端微塵になっている。そうか、俺を殺さないように武器だけを狙っていたのか……。完敗だ。あまりの実力差に悔しさすら湧かねえ。寧ろ清々しいくらいだ。
「ありがとう、本気で戦ってくれて。戦い方を色々学ばせてもらった、礼を言う」
差し出した手を掴むと軽々と立ち上がらされた。すげえ。言葉が出ねえぜ。それだけの技量がありながら人を見下した素振りもない。なんてデカい奴だ、気に入った! こいつと行動すれば俺はもっと強くなれるかもしれない。
「エリック、恥ずかしいからもういいって!」
テンションが上がって肩車し、さらにギルドの連中に誇らしげに紹介してしまった。カーズ、すげえ奴だ、こいつがいれば危険な依頼も挑戦出来るに違いない。早く上のランクまで来て欲しいものだ。いや、こいつならあっさり俺なんざ抜いてしまうだろうぜ。
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さーて、次は魔法の試験だ。担当はさっきのユズリハとかいうハーフエルフだったな。しかし、ただ魔法を見せるだけなのになぜこれだけのギャラリーが残っているんだか。エリックも外野に混じってニカニカしながらこっちを見ているし。こんなん見てもつまらないだろうに、みんなそこまで暇なのかね?
「じゃあ今から魔法の試験をするわね。準備はいいかしら、カーズ」
「ああ、問題ない」
コントロールさえ気を付ければ問題ない……、はずだ。
「じゃあこの舞台から向こうの端にある大岩に向かって魔法を撃ってもらうわ。どの属性が一番得意?」
そんなこと言われてもなあ、どの属性も熟練度を上げるために満遍なく使ってたし……。特にないな。
「特にこれと言って得手不得手はないな。どの属性でもそれなりには撃てる」
うん、嘘は言ってない。そこそこ練習したし。
「そうね、じゃあ私が言った属性の魔法の初級攻撃魔法を撃ってもらうことにしましょう」
「わかった。何でも言ってくれ」
「うーん、じゃあ最初は火属性でお願いね」
「分かった」
分かったとはいえ、初級に該当する攻撃魔法ってどれなんだ? 最初から満遍なくある程度覚えていたしな。アリアが寝てるのが悪い。
とりあえず適当なの撃っとくか。前に突き出した左手に炎をイメージした魔力を送る。的の大岩、てかどっから持って来たんだあれ? そこまでは20~30mってとこか、届かなかったら困るしそれなりに力を籠めた方がいいな。
俺の前方にかざした左手に炎の塊が燃え上がる、そこに燃え盛り爆発するイメージを込め同時に魔力を注ぐ。
『魔法はイメージの具現化ですよー、イメージが強いほど魔法の威力は上がりますからねー』と、アリアが言ってたし。このまま魔力を注いでいくぞ……。
うん、バランスボールくらいの大きさになったし、爆発させるイメージもバッチリだ。あとはこいつを的目掛けて放つだけだ。
「よっと!」
ゴゴゴゴ――ドォオオオオオン!!! ドガアアアアアァン!!!!
撃ち出した炎は……よし、ちゃんと的の大岩に命中したぞ! コントロールも我ながら良く出来た。これならOKだろ。
「やったよ。あれ?」
隣にいたユズリハは腰を抜かし、見物客はシ――ンとしている。あれ、なんか間違ったか?
「ななな、何よ今の魔法は?!!! 初級魔法でいいって言ったじゃない!!!」
「え? ファイアボールだけど……。初級じゃないのか?」
「「「「「おおおおお――い!!!! 何だそりゃ――!!!!」」」」」
何だかギャラリーがうるさいな。ちゃんと的に当てたじゃないか。ユズリハも何で腰抜かしているんだ? 魔導士なんだから彼女もあれくらいできるんじゃないか? 俺はよく分からないので顎に手をやって、うーん、と考えてみたが……、わからん。とりあえず的に当てたし、問題ないだろ。
「あれがファイアボールですって! あの威力下手したらSランクの幻のエクスプロージョンじゃない! どうなってんのよ、この子は~~!!!」
「あたたたた!!! 痛い、ユズリハ痛いよ!!!」
なぜか俺は今ユズリハにヘッドロックを決められている。魔力ヴェールも切っているから頭をぐりぐりされるとさすがに痛い。ムニュムニュとおっぱいにも当たるし、なんだ? ご褒美か?
「初級って言ったでしょーが! 加減ってのを知らないの?! この子は~~~!!!」
ぐりぐりぐりぐり!!! 痛い。
「痛い痛い、しかもおっぱいで息が出来ないって! ちょ、ユズリハ!」
はあはあ、と息を荒くしながらようやくヘッドロックを解いてくれた。何なんだ一体。まあとりあえずおっぱいはありがとう。最高だね、おっぱい。世界遺産万歳! 心の中で拝んでおこう。まだひりひりする頭を押さえながら彼女の方を見た。
「カーズ、あのね、どうやってあんな魔力をつぎ込んだの? ファイアボールをあんな大爆発するような威力で撃てるわけがないでしょうが! しかも無詠唱で撃ったでしょ、なのになんであんな威力になるのよ!」
そんなこと言われてもなあ。何だか怒られている。アリアに習った通りに撃っただけなんだけどな。普通の人の魔法とは違うのか? 後で文句言ってやるからな、あのぐうたら女神め。
「いやー、師匠に習った通りに撃っただけだよ。どこかおかしかったのか?」
まだひりひりする頭を擦りながら、ユズリハに尋ねる。
「アンタの師匠って何者なのよ……。普通は発動させる魔法に意味を持たせるためにその魔法名を呼ぶの。そしたらその魔法に見合った量の魔力から魔法が生成されて、媒介にしてる杖とかものから魔法が発動するもんなの!!! 常識よ!!! しかも杖とかもなしに発動とか!!!」
「えー、そうなのか? 師匠からはイメージを魔力で具現化してそこに魔力を注いで撃てって言われたんだけど……」
「ダメだわ、この子……。規格外過ぎて……しかも常識がなさすぎる。的もなくなっちゃうし、ハァ……」
確かに大岩は木端微塵だ。まだ煙が立ち上っている。うーん、このまま試験が続行できないのは困るな。
「じゃあ的を作って来るよ」
「は、はいー???」
とりあえず的があった場所まで移動し。氷の大岩を創るイメージで
「的作ったよ、ユズリハ。じゃあ試験を続けてくれ」
ユズリハは凍ったようにピクリともしない。どうしたんだ?
「おーい、どうしたんだ? 続きやってくれよ。次は何の魔法だ?」
腕をぐりんぐりん回して、やる気があることを伝える。
「あ、あ――、そうね。続きって、カーズ! アンタ反対属性の魔法普通に使ったわね! しかもあんな氷柱というか氷山じゃない! どうなってんのよ!?」
「どうやってって、
ユズリハはこれでもかって程の溜息を吐く。何だろう、試験中止か? それは困る。お金が稼げないじゃないか。参ったぞ。不合格って、美味いものを食べてって言ってたアリアに怒られるな。うるさいだろうなー、まずいなあ。
「いいえ、もう試験は充分よ」
「えっ、じゃあ不合格なのか。それは困るんだけど。再試験とかできるのか?」
「ハァ―――、逆よ逆! あんな芸当世界中探してもいないかも知れないレベルよ。寧ろ私が教えてもらいたいわよ」
「えっ、じゃあ……」
「マリーさ――ん! 私が判断できるレベルじゃないでーす! もう合格でいいですよねー!?」
マリーさんが腕で大きく〇を作った。良かった、合格らしい。ほっと胸を撫で下ろす。そしてまた外野がカーズコールを始めた。そしてその輪に取り囲まれて空中にぽいぽい投げられる。胴上げか? 俺何かに優勝したのか?? よくわからないが、みんな楽しそうだしいいか。俺はそう思って、みんなの気が済むまでぽいぽいとなすがままに宙を舞っていた。
「面白い子だのう。しかも途轍もない魔力量に逆の属性の魔法を苦も無く発動させるとは……」
とりあえずアリアが居眠りこいたせいだ。あの駄女神絶対あとで文句言ってやるからな。俺はこの世界の常識がわからないんだ、ほったらかすな! って。
黒く重々しい空気が周囲を包む。オロスから姿を奪った恐らくは上位の魔人、その悪魔から呪いの様に埋め込まれた悪を具現化したような因子。倒れた元団長格の2人の体からその禍々しい瘴気が立ち昇る。「クカカ、マダ……終ワランゾ……」 全身をドス黒く染め、赤く目を光らせながらのそりと立ち上がるカマーセ。「ククク、我ラハ王家ヘト……復讐ヲハタス」 同様に立ち上がるコモノー。もはや人間だった面影も確固たる意識すらもない。悪意そのものが蠢いているのだ。体中から瘴気を撒き散らし、辺り一帯を黒く染め上げていく。周囲の人達はそれに飲まれて苦しみ始める。「エリック、魔力を全身に!」「おう、くっ……確かにこいつらと向き合ってるだけで吐き気がするぜ。あの二人から対処法を聞いてなけりゃヤバかったな」 二人は精神を集中させ、全身に魔力の防御膜を張り巡らせる。「クレアさん、周囲の人達を非難させて! 悪意に飲まれるわ!」「魔力が使える奴は自分の周囲に魔力を張れ! 気分が悪くなるぜ!」 二人の大声の指示を聞き、恐怖を振るい去って全力で魔力を張るクレア。そしてそのまま騎士団に指示を出す。「この二人の言った通りだ! 魔力でガードしろ! そして周囲の人々の避難に回れ! 決して近づけるな!!」「「「「「ハッ!!!」」」」」 クレアの声で我に返った騎士達は各々の魔力を発動させ、周囲の人々の避難へと駆け出した。だがクレアは二人の背中から目が離せなかった。「あの二人に何かあれば私が戦わなくてはならん。しかし何だ……あの姿は? 魔人……。彼らは最早人ですらなくなってしまったというのか……?!」 だがその責任感のみで留まろうとするクレアにユズリハが叫ぶ。「クレアさん下がって!! 近くに寄るだけでも危険よ!!」「……っ、ああ、済まない。そうさせてもらう。お二人共、ご武運を!!」 彼らがそこまで言うのだ、大人しく引き下がるしかない。自分の無力さに歯ぎしりしながら後ろへ避難するクレア。「さてこれからがメインディッシュってことだな」「食べ物に例えたくはないわね」 二人が武器を構える。「アリアさんの指示通りいくぜ!」 構えた武器に聖属性の魔力を纏わせる。訓練の成果だ。本来魔導士のユズリハは勿論のこと、エリックも魔力コントロールは鍛錬してきた。「こいつらは正気を失ってる、ゾンビと同じよ
クレアを先頭に騎士団に囲まれながら馬車を飛ばす。飛ぶが如く! 入口はクレアの御陰で苦も無く突破。今は王城へ向けて全速前進中だ。エリックにユズリハは既に御者のおっちゃんの隣で出撃準備も万端だ。俺は馬車の上から探知、鷹の目、千里眼で城下町の街道周辺を探索中だ。街の人々は何事だ?って感じでこちらを見ている。 確かに民たちに元気がない。くそっ、普通に暮らしている人達を巻き込みやがって! そして前方に騎士団が待ち構えているのを捕らえた。「来た! 予想通り騎士団だ、数は約100、鑑定したところ団長も副団長もいる! あと5分もすれば接敵だ、任せたぞ二人とも、それにクレア!」 集中し俺に出来る最大限のバフを三人にかける、アクセラレーション、パワーゲイン、ファイアフォース、ダイヤモンド・アーマー、マジック・リリースにリジェネレーション。三人の能力値が大幅にアップする。「ありがとう、カーズ!」「ああ、問題ない。死ぬなよ!」「ここは任せときな!」 騎士団が前方に迫ると二人は馬車を飛び降りる。と同時に疾風の様に騎士団の間を潜り抜け、エリックは団長のカマーセ、ユズリハは副団長コモノーの前へと駆け出し、一瞬で1対1で対峙する構図を作り出した。いいね、作戦通りだ。「何だ、こいつら!? 一瞬で目の前に」 驚きを隠せないカマーセ。「わ、わかりません、突然目の前に!」「おっと、どうせ王女暗殺未遂なんてベタな濡れ衣で捕獲しようって作戦だろ?」 ニヤリと笑うエリック。「バレバレなのよ。ウチの大将の予想通りね」 おい、大将って誰だよ?「くそっ、なぜこちらの作戦が漏れている!?」 焦るカマーセ。そらバレるっての、それくらいしかネタがねーだろ、ガバガバなんだよ!「おい、お前達! こいつらはアーヤ王ッ、むぐぐ……」 コモノーが声を出せなくなる。「どうしたコモノー?!」「く、口、が……ッ?!」「汚い口は塞がせてもらったわよ。サイレンス。余計な指示など出させない」 おお、ナイス判断、ユズリハ。「こいつ、無詠唱だと?!」 焦る一方のカマーセ。「お前らはここで終わりだ。ウチの大将の邪魔はさせねーよ」 だから大将って誰だよ。まあいい、上手く団長格の行動は
あと約半日、恐らく昼頃には王国に到着する。 俺達は馬車に揺られながら最後の作戦会議中だ。本物のオロスからの情報によると、宰相のヨーゴレ・キアラ、こいつが事を起こしているのは間違いない。しかしひっでえ名前だな、汚れキャラかよ。もうネーミングに悪意を感じる、おもろすぎるだろ。名は体を表すとはいうけどね……。おっと脱線。 どうやら王位に就きたいというような愚痴を常日頃からこぼしていたらしい。オロスはそれを宥めていたようだが、約一か月程前に魔人を名乗るものに襲われ、姿を奪われたということだ。それ以降はその魔人の手足となって動かされていた。宰相のその欲望に上手くつけ込まれたということだな。しかし権力ねえー、いやーほんっとにどうでもいいなあ。 奴らは国を乗っ取るために、急激に税を上げるなどのあからさまに強引な政策を行った。おそらく魔人の能力で人間の僅かな悪意を増長させたのだろう。国民は疲弊し王家への不満が高まっているらしい。 そういった負の感情が魔人には堪らなく美味であり、それらを集めることが魔王復活の引き金に繋がるということらしい。魔人にされていた本人が言う言葉だし、真偽は明らかだ。 そんな折にアーヤの単独の公務での中立都市訪問が重なったため、中立都市近郊の盗賊共を闇魔法で操り、国外での暗殺を謀ったということだ。そしてこの責任を中立都市に押し付け、国内に混乱を巻き起こして国民の不満感情を煽ることで反乱を起こし、配下の騎士団、その団長カマーセ・ヌーイと副団長コモノー・スーギルに王族を暗殺させ、一番末の王子ニコラス、まだ10歳にも満たないらしい、その子を国王とし、傀儡政治を行おうとのことだ。 だが、アーヤは俺が運良く救出したため、その策略が頓挫した。どっちにしろ結構お粗末な陰謀だ。古代の文明レベルだよ、俺からしたら。しかも自分は王になれねーじゃん。古代文明並みの超低レベルな策略、アホ臭い。ということで恐らく次の策謀を考えているであろうということだ。しかし今度はかませ犬に小物過ぎかよ、一発芸人かこいつら? クラーチの人の名前ってネタなのか?「プププ、クラーチの人は変わった名前が多いんですよねー」 とアリアは笑っていたが、変のレベルじゃねーよ、悪意しか感じねーよ! 出会ったら笑ってしまいそうだわ。既にエリック達はバカ受けしてるしな。しかもギグスとヘラルドに、「お前
「オロス、アーヤ王女の暗殺に失敗しただと! 一体どういうことだ!?」 激高した表情で怒鳴りつけるまだ20代後半の男。国の政務を一手に任され、若くして宰相の位まで上り詰めた天才と言われるヨーゴレ・キアラ。しかし若くしてその才能を発揮するも、それ以上の権力、王族にはなれないことが野心家の彼には我慢ならなかった。「ククク……、どうやら中立都市の方で邪魔が入ったようで。更に帰還中も中々やり手の冒険者共が護衛に就いているようですな。いやはや、ゴロツキ共には荷が重かったようですなあ」 オロスと呼ばれた男はさも愉快であるかのように笑う。その動きはどう見ても人間の動作にしては薄気味悪い。もちろん魔人が入れ代わったものだ。本物は既にカーズ達に保護されている。「おのれ、腐った王族共が……。運がいいことだな」 どれだけのことを成し得ようとも、世襲制である王家を差し置いて自らが王になるなど不可能なことだ。ただの穀潰し、王族に生まれたということで何もかもが約束されている。何の苦労もせずに王位を継ぎ、そんな奴らに頭を下げ続けなければいけない。次の王に相応しいのは自分のような人間であるという過剰に狂った自意識。そんな彼が魔人に付け込まれるのはある意味当然の末路だったのだろう。「クククッ、どの道あの小娘もここに帰ってきます。恐らく証拠の類を持ってね。如何にして切り抜けるおつもりですかな。監視につけていた私の部下も捕らえられたようで、いやいや、中々の手練れですなあ。お見事お見事」 オロスを名乗るその男はこの混乱を楽しむようにヨーゴレを煽る。「お前の案に乗ってやったというのに……、このままでは王女が帰還したら全て終わりだ。何か案はないのか?」「ではまた騎士団を使いますかな? ここのところの不況もあって国民の王家への不満は高まっておりますしなあ。まあその状況を作ったのは貴方ですがね、ククク」「騎士団をどうするつもりだ? 下級騎士を無理矢理護衛に任命させたことで内部で分裂も起きているのだぞ」「ククク、ではその不満分子共、あの女副団長には軍を率いて遠征に出てもらうことにしましょう。魔王領の調査という名目でね。国王の命もあと僅か、騎士団が分裂すれば大魔強襲の守りは手薄になる。その混乱に乗じて国民の不満を逸らすために全ての責任を王家に負わせ、抹殺すれば良いではないですか
さて、約束の日になった。俺はエリック達、それと俺の師匠兼姉設定のアリアと共に、ギルドマスターの部屋でアーヤ一行と最後の打ち合わせを終え、馬車へと向かうところだ。「カーズ、そしてアリア殿、王女とこの馬鹿共をよろしく頼むぞ」 エリックにユズリハ、酷い言われようだな。それだけ付き合いも長いんだろうしな。「「うっさい、ジジイ!」」 この二人、やっぱ息ぴったりだな(笑)「はーい、お任せあれー」 軽いアリア、平常運転だ。冒険者登録はしてないが、俺の姉で師でもあるとのことでステファンも同行することに異議はなかった。お主の師なら問題ないじゃろ、ってことだ。エリック達が強く推薦したのもあるけどね。「わかりました、やれることはやってきます」 馬車で待っていたのは護衛の2人、優男のギグスに、大柄なヘラルド。騎士の鎧に身を包んでいる。「久しぶりだな、嬢ちゃん」「息災で何よりだ」 説明が面倒くさいので、俺が男だと魔眼で認識を書き換えておいた。それでもギグスの嬢ちゃん呼びは変わらないのだが……。「ちゃんと護衛の任務は果たしたみたいだな」 俺の皮肉にも笑ってくれる、やっぱいい奴らだなこの二人。エリック達ともすぐに意気投合したようで、問題なく馬車に乗り込み、旅はスタートだ。騎士と冒険者とか、いがみ合いがありそうなテンプレ展開を予想してたが、この二人はそんな態度は取らずに楽しく対等に話している。 アーヤの側には侍女二人が付き添っているため、俺は特に話してはいない。必要があれば通信で会話はできるしな。 それよりもピクニック気分ではしゃぐ姉設定の女神が隣でとてもウザい。とにかく俺にベタベタしてきて、実にうるさい。食い物与えとこうかなあ。 そのせいでアーヤからは姉とはいえ微妙なジト目で見られている。なんだか実にいたたまれない、だが見た目は双子のようなものだし、誰も疑うことはないけどさー。静かにして欲しい。 それに結構豪華な馬車だがやっぱり揺れる、現代の車で快適な運転をしてきたせいでとてもお尻が痛い。フライで少し浮いて衝撃が来ないようにした。痔になりそうだしな。 俺は常に周囲に探知を張り巡らせて索敵しているし、馬車にもアリアが厳重に物理・魔法結界を張ってくれた。奇襲を受けてもまず確実に跳ね返される強度だ。 クラーチ王国に入るまで約3日、必ず奇襲があるということは、ハ
3日が過ぎた。俺達は約4日後の任務に備え、毎日クエストがてらに街から離れた場所で鍛錬中だ。要するに毎日アリアにしごかれてるってことだ。毎回俺は死にかけてるけどね。1日1回の致死ダメージ無効の加護があるとはいえ、アリアは稽古中は容赦ない。毎日1回死んでるのと同じだ。今日は残り日数から計算して中日になるので、休息しようということだ。 目が覚めると、アリアはいつも通り女性化した俺にしがみついている。確かにこの体の状態だと女性的で柔らかいので気持ちがいいんだろう。だが毎日抱き枕にされるのも勘弁して欲しいものだ。 同じベッドで寝ててそういう気分にならないのかって? ならないね、全く。まず俺は女性に対してあまり良い思い出がない、だから基本的に関心がない。そしてこの寝相の悪い女神は確かに美人だが、俺と似たような外見だ、更に中身もぶっ飛んでいる、手に負えない。そんな相手に劣情は抱けないだろ? 下手したら俺が襲われると思う。 まあそんなとこかな。あ、でもおっぱいは素敵だと思う。唯一女性の崇めることができる点、それがおっぱいだ、どこの世界でも世界遺産だと思う。はい、説明終わり! てことで俺にこんな厄介な因子を植え付けたこいつはギルティなんだが、恩人でもある。邪険にはできないんだよな。 因みに、まだ寝ているときのコントロールは上達しない、全くダメだ。王国までの恐らく泊りがけになる任務に臨む前に何とかしたいんだが、全くダメ。「笑えるほどにセンス0ですねー」 毎回鼻で笑うこいつにはその内何かしらのお仕置きだ。しかし参った、せめて胸が目立たない大きさならいいが、女性体になると邪魔になるくらいの巨乳になるのだ。隠しようがない。 一人部屋になるか、せめてアリアと同室ならいいが、王国までは馬車で約1週間の道のりになるらしい。馬車で寝泊まりするってことだ、非常にマズイ。もういっそバラした方がいいのか? いや、エリックは笑って済ますだろうがユズリハには絶対おもちゃにされるに決まっている。 おっぱいへの崇拝のせいでこんな変化になってしまったのだろうかね。拝むのはいいが、拝まれるのは御免だ。残りの時間練習するしかないな。 だが今日は1日オフだ。転生してこの数日ずっと鍛錬にギルド依頼と、ぶっちゃけバトルばっかりしているんだ。折角の異世界なんだし一人で街をぶらぶらと探索するのもいいだろう。